ベイズ問題の考え方(後編)
前回のまとめ
仲の良い女性5人、男性3人の合わせて8人が旅をしている。夕刻に和風旅館に到着し、女性2人のグループが二つ、男性2人のグループが一つ、男性、女性1人づつのグループが一つの、合わせて四つのグループに分かれて四つの部屋に入った。なお、この時点では旅館の係員はどの人がどの部屋に入っているかは把握していないものとする。
一息ついた頃、旅館の係員が無作為に一つの部屋を選んでドアをノックしたところ、中から女性の声で「誰かが訪ねてきたようだけど、いま手が離せないのであなたが開けてあげて」と話しているのが聞こえた。このとき、部屋のドアを開けるのが男性である確率を求めよ。
- 答えは 1/5 である。
- しかし、「1/5 ではなく 1/3 だ!」と主張する人がわりといる。
- いーや、1/3 は間違いだ、という反論を書くぞ。
ここから続き
まずは 1/3 派の主張をまとめてみよう。こんな感じだろうか。
問題を図にするとこうなる。
部屋 A 女, 女 部屋 B 女, 女 部屋 C 女, 男 部屋 D 男, 男 まず女性の声が聞こえたので、男性二人の部屋 D の可能性は除外する。
残り三部屋のうち男性がいるのは一部屋。
ゆえに 1/3 。
なるほど。確かにそう言われると判りやすい。そういうものかと思ってしまう人もいるだろう。
正面から反論するのはちょっと面倒なので、改変した問題を作ってみる。
仲の良い女性8人、男性4人の合わせて12人が旅をしている。夕刻に和風旅館に到着し、女性3人のグループが二つ、男性3人のグループが一つ、女性2人、男性1人のグループが一つの、合わせて四つのグループに分かれて四つの部屋に入った。
一息ついた頃、旅館の係員が無作為に一つの部屋を選んでドアをノックしたところ、中から女性の声で「誰かが訪ねてきたようだけど、いま手が離せないのであなたが開けてあげて」と話しているのが聞こえた。このとき、部屋のドアを開けるのが男性である確率を求めよ。
図にするとこういう感じである。
部屋 A | 女, 女, 女 |
---|---|
部屋 B | 女, 女, 女 |
部屋 C | 女, 女, 男 |
部屋 D | 男, 男, 男 |
どうだろうか。
男性三人の部屋 D を除いた、残りの部屋が三つで、そのうち男性がいるのは一つという部分は変えていないので、最初の問題に 1/3 と答えた人は、この問題にも 1/3 と答えねばならないはずである。
さらに悪いことに、仮に係員がノックしたのが部屋 C だったとしても、出てくる「あなた」は女性である可能性もあるのだ。
1/3 派の人、耐えられますか?
じゃあ、どう考えればいいのか。これも地道に列挙してみる。
まず女性の声が聞こえたので、男性二人の部屋 D の可能性は除外する。
残りの女性8人を E, F, G, H, I, J, K, L, 男性を Z とする。
すなわち、先の図を書き換えるとこうだ。
部屋 A | E, F, G |
---|---|
部屋 B | H, I, J |
部屋 C | K, L, Z |
ここで、女性が同室者に声をかける全パターンを数え上げる。
部屋 A は
- E → F と E → G
- F → E と F → G
- G → E と G → F
の6パターン。
部屋 B は部屋 A と同じなので省略。6パターン。
部屋 C は
- K → L と K → Z
- L → K と L → Z
の4パターン。
足し合わせて16パターンが起こりうる全パターンなので分母は16。
その中で声をかけた相手が男性(矢印の後の項目が Z )なのは K → Z と L → Z の2パターン。分子は2。
2/16 = 1/8
ゆえに答えは 1/8 。
1/8 と 1/3 を通分すると 3/24 と 8/24 。
この問題で 1/3 と答えたら2倍以上も確率を高く見積もっていることになるのだ。
さらにダメ押しでもっと人数を増やしたバージョンを作ってみる。
仲の良い女性29人、男性11人の合わせて40人が旅をしている。夕刻に和風旅館に到着し、女性10人のグループが二つ、男性10人のグループが一つ、女性9人、男性1人のグループが一つの、合わせて四つのグループに分かれて四つの部屋に入った。
一息ついた頃、旅館の係員が無作為に一つの部屋を選んでドアをノックしたところ、中から女性の声で「誰かが訪ねてきたようだけど、いま手が離せないのであなたが開けてあげて」と話しているのが聞こえた。このとき、部屋のドアを開けるのが男性である確率を求めよ。
図にするとこういうことである。
部屋 A | 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女 |
---|---|
部屋 B | 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女 |
部屋 C | 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 女, 男 |
部屋 D | 男, 男, 男, 男, 男, 男, 男, 男, 男, 男 |
これを 1/3 と答える人はいないと思う。(ちなみに、正解は 1/29 )
そして、これが 1/3 ではないということは、翻って最初の問題の答えも 1/3 ではありえないのだ。
どうでしょう。1/3 派の人、納得してもらえたでしょうか。
まとめると、「残りの部屋は三部屋。そのうち男性がいるのは一部屋。ゆえに 1/3 」という雑な考え方ではダメで、部屋の中の性別構成をちゃんと見なければならない、ということですね。